ル・ポタジェ・デ・セル

中根 ニコラスさん(イギリス出身) 
スコットランド生まれフランス育ちのニコラスさん。イギリスの大学に通っていた1996年に1年間だけ交換留学で群馬県に住むことに。大学で日本の美術史を専攻していたこともあり、交換留学後も毎年のように来日しては寺社や博物館、美術館などを見て廻り、日本の美術や文化を勉強していた。
大学院を卒業後はフランスの酒販会社に入社。仕事の取材や撮影で酒の原料となる麦やブドウの生産者を訪ね、自然酵母を使用して自然派ワインを製造する現場などを見て栽培方法や品質の良さを感じてきた。その頃「自分で食べるものは自分で作っていきたい」という思いも芽生え、2013年にフランスでパーマカルチャーの資格を取得し、農業を始めた。
佐久市春日に移住して4反歩からスタートし、現在では自身の畑に留まらず、パーマカルチャーの概念と倫理のもと、自然環境の循環と維持のために周辺の土地を借り、永続的な農業の実践に取り組んでいる。

パーマカルチャーとは

パーマカルチャーは1970年代にオーストラリアの学者と環境デザイナーによって提唱された造語で、パーマネント(永続性)、アグリカルチャー(農業)、カルチャー(文化)を組み合わせている。すなわち、自然と人が共に豊かになるように地球に負担のかからない農業や文化を永続的に行っていくための生活デザインの手法のことをいう。

パーマカルチャーで大切とされている3つの心構え

①地球に対する配慮
②人に対する配慮
③余剰物の共有


これは、地球にいる生物や土、水、空気といった生命を支える全てに対して配慮し、人が地球に与える影響を意識し、環境保全をしながら生活していくということ。また、自らが得た食料やエネルギー、情報、能力などは独占せずに共有することでより豊かな社会を築いていくという考え。
日本ではパーマカルチャーセンタージャパンが設立され、パーマカルチャーデザイナーの資格を取得できる。その他、全国各地でパーマカルチャーを学べる施設やエコビレッジがあり、イベントや講座が開催されている。

気候がフランスに近い長野県を選んで

フランスで農家となり、日本に来て、就農場所として佐久市春日を選んだ理由は?

多品目の野菜が作り出すパッチワークのような美しい独特の風景が段々畑から見渡せる。

妻が日本人なので話し合いの結果、日本で暮らすことにしました。千葉県と長野県が候補に上がりましたが、フランス系の野菜を栽培したかったので、気候がフランスに近い長野県を選びました。
ちょうどその年に長野県有機農業研究会の全国大会が佐久市で開催されていたので、それに参加したのがきっかけで、地元の農家さんに今の土地を紹介してもらい、佐久市に住むようになりました。初めは草だらけで土手も見えず、元は棚田だったのでぬかるんだところもあって、夜来た時に車がハマって大変な目にもあいました(笑)。

そんな苦労もありながら、この場所で農業を続けているのは何故ですか?

山間の畑だと傾斜になっている所も多いのですが、ここは元が田んぼだったので平らというのが良かったです。畑1枚ごとの大きさや入り口は狭いですが、大型の機械を使った農業をする気はなかったので多少の狭さは気になりませんでした。あとは、沢もあり水場に困らない点も良かったです。そして何よりも上から下まで全て見渡せるこの景色がいいなと思いました。

畝のサイズを統一し無駄なく作業

この環境の中で、どのような方法で農業をしているのですか?

エグ味がさほどなく、甘さだけではない野菜本来の味の濃さが感じられる。

1つの面積が小さい畑なので、畝を幅75cm、長さを5mに全て統一しています。揃えることで資材や肥料の使用量、生産量から算出される収入が計算できるので無駄なく作業ができます。あと、長い畝がたくさんあると作業をしていて飽きてしまうので、自分としては達成感が得られるこの方法が合っています。細かく区画した畑で多品目栽培をしているので輪作がしやすく、10年くらいのサイクルで作る場所を回しています。緑肥のライ麦を間に挟むので連作障害はまずないですし、栄養をあまり必要としない野菜の次に栄養を必要とする野菜を栽培すれば、前の野菜が残した栄養分を次の野菜が使うから土壌のバランスも良くなります。肥料も最小限で済むので経済的です。

植える時は株間を狭くして、すき間に草が生えてこないようにしています。また、成長する過程では、小さな野菜を採って間引きするんですが、そんな野菜でも飲食店では喜んで使ってくれます。それと、収穫する時は大きさを見ながらではなく、場所で順番に採っていきます。小さくて若い時の方がエネルギーに溢れていると思うので、小さくても気にせずに採っています。

環境を意識した耕さない農法

環境を意識した方法でいうと、基本的に耕さないということです。耕すと、機械を使えば燃料からCO2が排出されますし、土をかき回すことで肥料や植物が含んでいるCO2の排出を活発にします。地球の温暖化の原因ともなっているCO2をなるべく抑制するためにも、機械を使用して耕さないようにして、特製の土起こし機を使っています。

この道具は土をかき混ぜるのではなく、大きくて長いフォークを地中に刺して地上に戻すだけなので、必要な土の微生物や生き物の環境を崩すことなく、草の根を切ったり、硬い部分を優しくほぐすことができます。誰のため、何のための農業かを意識しながらやっていくことが大事だと思います。

土を起こしたらマルチなどはせずに直接そこに植えていきます。収穫後も耕さずに「固定畝」にして、使わないところはシートをかけておきます。中は温かく暗いので、土の中の微生物や生き物たちの居心地の良い場所となって活動を活発にします。また、冬に緑肥として育てたライ麦を刈ってシートをかけておけばライ麦が分解され、余計な草は生えてこないというメリットがあります。

オリジナルの土起こし機 ニコラスさんが使うと流れるようにリズム良く土を起こしていく。

そんな農作業方法で育てられた野菜は、どんな特長があるんでしょうか?

土の中の環境をなるべく自然のままに維持して、余計な肥料などを与えずに育てた野菜には、野菜が持っている本来の味わいと、その土地の力強いエネルギーそのものを感じさせるような濃い旨味があります。私が心掛けていることは「食べやすく、意図的に作られた味の野菜ではなく、原種に近い野菜を栽培する」ことです。

日本とフランスは正反対

味への強いこだわりを持たれていますが、日本とフランスでは野菜に対しての考え方に違いはありますか?

ニコラスさんがお気に入りというフェンネルは、葉や株はもちろん花も出荷している。花でもフェンネルの香りがしっかりとして、蜜の甘さもある。

基本的には正反対ですね。まず日本の有機農業は全体の1%以下ですが、フランスは13〜14%なので、10倍以上は違います。なので有機野菜は日常的にあります。それと日本では規格が決まっていて袋詰めされた綺麗な野菜が売られていますが、フランスでは虫食いや形がいびつな野菜も好んで買われます。その方が自然に育っていると分かるので。包装もプラスチックを嫌がるのでビニールに入れたりはしていません。あとは、料理人も一般の人も、見た目より味が一番という考え方があります。
フランス料理はソースの味がしっかりしていたり、油を多用することから、野菜の味がしっかりしていないと負けてしまうので味が重要視されています。そういった基準や感覚の違いは感じますね。

自己判断で永久持続的に暮らしていく

ニコラスさんが考えるパーマカルチャーとは何ですか?

一番は自己責任で生きていくことです。自分で食べるものを作ったり、置かれている環境や自分の体質に合った物を食べて、誰かに導かれてではなく自分で健康を維持していくことです。あとは、永久持続的に暮らしていけることですね。暮らしていくには家を建てる技術か食べ物を作る技術が必要だと思ったので、農業を自分は選びました。日本ではパーマカルチャーといえば家庭菜園とか小規模での栽培が多いですが、海外では大規模農家もいます。
パーマカルチャーには決まったやり方はなく考え方だと思うので、パーマカルチャーに興味を持った人や食べ物の作り方を知りたいという方には、講座を開いて少しずつですが教えています。専業農家も一般の方でも、みんなが意識しないと環境は変わらないと思うので、そういった方が増えてくれるといいですね。


ル・ポタジェ・デ・セル

  • 基本情報
    • 農場長 中根ニコラス
    • 従業員 1名
    • 所在地 佐久市春日2402
    • Mail  email hidden; JavaScript is required
    • facebook「ル・ポタジェ・デ・セル」
  • 販売先
    • 飲食店、個人への販売
    • 佐久市にあるMaru Cafe で土曜日に開催されているawai marketで量り売りをしている。
  • 取扱商品
    • 多品目栽培

2021年9月13日