アグリキュルチュール軽井沢

   菊池永香さん (佐久市出身) 雪帽子を被った浅間山が綺麗に見える平地。冬の閑散期で茶色が目立つ田畑に囲まれた中にアグリ・キュルチュール軽井沢の圃場となるハウスが数棟建っている。ハウスの中は寒さの厳しい東信州の冬とは思えないくらい、鮮やかな野菜の緑が目に飛び込んでくる。アグリ・キュルチュール軽井沢では一年を通して、何種類ものミニ野菜を栽培している。冬の栽培が難しい地域で安定した栽培を行うための仕組みを、農場長の菊池さんに聞いてみた。

機械製造・精密加工会社の新事業として

 菊池さんがこちらで働くようになった経緯は?

カラフルでかわいい野菜が一年中栽培されている。

長野県農業大学校を出て、農業関連の会社で営業として肥料などの販売をしていました。数年前に上田市の機械製造・精密加工の会社である綿谷製作所が新事業として「あまり市場に出回っていない野菜」を特殊な方法で施設栽培したいので、そこの管理者となる場長を探しているという話を聞き、自分もいつかは野菜作りをしたいと思っていたので、知り合いを通じて紹介してもらいました。2018年10月に数箱を種撒きしたのが最初で、そこから試験的に栽培を始めました。2020年からは販売も始まり、販路を拡大しています。

半自動の自作散水機にコンテナ隔離栽培

栽培の特長はありますか? 

コンテナの高さ
立っても座っても負担の少ない高さにコンテナ
を設置することで幅広い層の人の作業を可能としている。

トマトやイチゴなどをハウスで栽培するときは隔離ベット栽培という用語を用いますが、それとは少し違うので、「コンテナ栽培」とか「コンテナ隔離栽培」と呼んでいます。
 この栽培の特長は、決まったサイズのコンテナを使って区切りながら栽培するので、野菜が病気になってもそのコンテナだけ外したり、処分をすればいいことです。再び作るのもさほど手間を必要としないので簡単に作りなおせます。コンテナのサイズもそんなに大きくはないので、女性や高齢者でも運びやすいという特長があります。コンテナを置いているベンチを人の腰の高さにセットしているので、腰や身体に負担が少なく作業ができるという利点もあります。設備の特長は、ハウス内は空気の循環があまりないので、扇風機をある程度の間隔で設置して、ハウス内の温度や湿度を一定にし、病気になりづらくしています。散水する機械はスプリンクラーを使えばいいのかもし れませんが、コストや効率を考えて自分たちで考えた散水機を使用しています。半自動なので、スイッチ1つで全体に安定した量の水を撒いてくれます。水やりの手間が省けるので、その時間を他の作業に回せます。

散水機
オリジナルの散水機でハウス内に一斉に水を撒いていく。

あとは、私が肥料の会社に勤めていた経験を活かして、肥料や土壌の改良を行っています。 営業マンだった頃は知識だけで伝えていたので、いざ自分でやってみると難しいこともありましたが、改良を続けている中で、 ある段階で野菜の品質が非常に良くなった時があって、お客様からも美味しさが増したという報告をいただくようになりました。今は野菜作りの難しさや変化を楽しみながら栽培しています。本来、野菜は自然の土で作ることで健全で美味しいものができると思うのですが、それに負けない野菜を作ることを意識して、更なる改良をしています。

環境にも優しい油化機で冬季燃料のコストダウン

この地域で課題となっている冬場の栽培を可能としている仕組みは?

コンテナごとに時期をずらして栽培している。

サーモセンサーで温度設定をして、温度が下がると温風で調整するというやり方はどこもやっているかと思います。ただ、その方法は暖房に使う灯油をかなりの量使うので、灯油代が相当かかります。そこが冬場の栽培をやらない要因の1つだと思います。それを解消しているのは、農場の親会社となる上田市の綿谷製作所が製造している油化機という廃プラスチックを重油に換える機械です。その機械で作られた燃料を使うことで燃料費のコストを抑えています。廃棄となるプラスチックを換えているので、環境にも適しています。

ハウス内で何種類くらいの野菜を作っていますか?

 販売用のミニ野菜セット

現在は13品種の野菜を作っています。オーソドックスなニンジンやラディッシュなども数種類栽培しています。最近のオススメはミニゴボウですね。皮付きのまま生でも食べられます! お客様の声も聞きながら今後も品種を増やしていきたいと思っています。安定した栽培ができるので、この時期にこの野菜が欲しいと注文をいただければ、 それに合わせて受注生産という形でやっています。

環境を考えたモノ作りから始まった農業

工作機械や環境装置の製造、精密加工を主要営業品目としている綿谷製作所が新会社を立ち上げ、施設栽培を始めるようになったきっかけは?

環境と省エネの事業化を進めていく中で、これまでの技術を活用して環境に配慮した機械を製造してきました。太陽光パネルのリサイクル装置や、生ゴミを処理してオーガニック肥料を生成する機械などがあります。その中でも、廃プラスチックを再利用して重油に還元する油化機を製造した時に、冬の寒さが厳しいこの地域でもハウスで野菜が作れるように、この重油を活用できないかと思いました。ちょうどその頃、空きそうなハウスがあるという話を聞いたので、そこを借りて施設栽培を始めることにしました。農業という新たな分野とはいえ、元々モノ作りをしている会社なので、せっかくならお客様が買いたくなる野菜を作り、食べて喜んでもらえるようになりたいということを目標に始めました。

株式会社綿谷製作所

新しい農業の可能性

廃プラスチックから還元した重油を使った施設栽培をさらに広く展開することは考えていますか?

代表取締役社長綿谷憲一さん

現段階では自社で試験的に行っていますが、設備費などの初期投資は高いものになります。なので、個人の生産者が活用していくというよりも、法人化やグループ化した生産者がまとまって一つの施設を活用して、冬場の栽培を向上していく形の方がいいかと考えています。冬場だけでなく夏場の暑さにも対応するべく、ビニールハウス内の温度を下げるということにも取り組んでいます。近年では他企業や自治体、地元の学校などと連携してプロジェクトを立ち上げたりしていますので、新たな農業の形や環境に適した技術の開発などができればいいですね。我が社では創業者が残した、「峠には頂あれど技術には技術の嶺を知る人ぞなし」という言葉を社訓としています。決して現状に満足せず、まだ上があると思って常に技術の向上を目指してモノ作りをしていきたいと思っています。

アグリ・キュルチュール軽井沢

  • 基本情報
    • 農場長 菊池永香 
    • 従業員 9名
    • 所在地
      • 佐久農場・長野県佐久市常田495-1
      • 佐久営業所・長野県佐久市塚原410-17
    • TEL
      • 0267-78-5971 
      • 090-4159-6090(菊池)
  • 販売先
    • 店、直売所、八百屋など
  • 取り扱い商品
    • ミニ野菜(ニンジン、ラディッシュなど13種類ほど) 

2021年6月19日