たくみの

由井 拓実さん (佐久市長者原出身)  
慣行農家だった両親が1980年代に有機農家家へと転換し、この地域の有機農業の先駆けとして活動していた。そんな両親の背中を幼いころから見てきた拓実さん。1度は自分の夢のために農業から離れていたが、農場を引き継ぐ決心をし、農場の名前も「ゆい自然農園」から「たくみの」に変更して次世代へと継承させた。開放的で清々しい長者原の空のように、穏やかな拓実さんが作る野菜は、食べる人をにこやかにする。

看護師からの就農

前職の看護師から農家を志したきっかけは? 

寒暖差によって朝露が降りたキャベツ

子どもの頃は農業を仕事にしようとは全く思っていませんでした。ただ、両親が運営していた農園は、無農薬・無化学肥料で栽培していて、そのやり方が昔からいいなとは思っていました。でも、看護師になりたいという夢もあったので、看護師の仕事が一段落してから始めようと考えていました。長者原は開拓地なので、自分の祖父母が開拓した土地を引き継いでいかなくてはという気持ちもありました。浅間山や蓼科山、北アルプスを眺めながら開放的に仕事ができるのはとても気持ちいいですし、ここでずっと自然を楽しみながら農業ができればいいなと思っています。

標高約1000m高齢地が育む野菜 

  野菜や農場の特長はありますか ?

甘みが特徴のビーツ
ハウス栽培のカラシ

 野菜の特長としては、ここ長者原は標高1000mの拓けた土地なので寒暖差が激しく、それが野菜の味を良くしてくれるということと、朝露が降りるので水やりをそんなにしなくても育つということですね。農場でえば、年間を通して宅配をしているので、野菜の少ない冬から春先に向けて、土ムロ(貯蔵庫)には秋に採った根菜やイモ類、キャベツ、白菜などを大量に貯蔵しています。ネギも秋に収穫したものをネギ小屋に干しておいて冬から春に配送したり、冬越しもできる冬菜やホウレンソウを秋に栽培したり、からし 、ルッコラ、ターサイなどをハウスを使って栽培しています。年間の作付け計画は、親の代のときは母親が決めていました。確かな経験に基づいているので、自分が計画する時も参考にはさせてもらっています。計画の基本は栽培してみて良くできたものを継続していくように考えています。特にビーツはエグ味がほとんどなく、甘みがあって美味しいので毎年作っています。あとはピーマンもよくできますね。

両親から受け継ぐ農地と姿勢

拓実さんの中で、ご両親の影響はあると思いますが、どんな方ですか ?

ネギ小屋で冬を越すネギ

父がジャガイモ、長芋 、ゴボウなどを専門に栽培し、その他の葉物などは母が栽培していて、それらをあわせて個人宅に販売していました。父は自分でまだ畑をやっていますが、現在、母は私の畑を手伝ってくれています。母は昔から家のことをみながら、朝早くから畑仕事をし、夜は事務仕事をしているような人でしたので、その姿は自分も見習わなければなと思っています。私自身なかなかその域に達してはいませんが学ぶべきことはたくさんあります。

現在はたくみのを手伝っている拓実さんの母、由井喜代子さんに話を聞いてみた。

拓実さんと母の喜代子さん

山形県の米農家の出身で、小さい頃から家の手伝いをしていたので、「農業はやりたくないな」と思い東京の大学で写真を学んで、卒業後は東京で働いていましたが、故郷を離れて初めて、自分で食べ物を作る農業の良さを感じました。それから縁があってこちらに嫁いできて農業をやることになりました。当時ここは慣行農業が盛んで、有機農業をやっている人はこの辺りに誰もいませんでした。ただ、出身の山形県の高畠町は有機農業の先駆的な場所で、その様子をよく見ていたから有機農業をやりたい気持ちがずっとありました。15年ほど経ち、ようやく始めるきっかけができたので思い切って始めました。1年目は市場に合わせたものを作っていましたが大赤字でした。2年目はかねてからやりたいと思っていた個人宅への配達に切り替えました。チラシを打ってみたら結構な注文をいただきましたね。当時は環境問題について騒がれていた時代でもあったので、環境に関心があるような方からのご注文もいただきました。ありがたいことに長いお客様は今でもお付き合いがあり、親子でご注文いただいている方もいます。そんな繋がりもあるので、拓実が継いでくれて本当に良かったと思っています。

拓実さんの妻であるまなみさんが経営する飲食店「まなみの」。農場の直営店ではなく、2人で「のの」というユニットを組んで、その中でそれぞれが農場と飲食店を経営している。
民家を改装した店内には昔の梁やテーブルが残っていて、懐かしさや落ち着いた雰囲気の中で、地元で獲れた鹿肉とたくみのの野菜をふんだんに使った料理が楽しめる。

お店を始めたきっかけは。

まなみさん

 農場の仕事をしていた時に、はぶき野菜(販売にはあまり向かない野菜)を使って従業員のまかないを作っていたんですが、まかないだけでは使いきれないでいました。でも農場に訪れてきた人に振るまうと喜んで食べていただいたので、もう少しいろんな人に食べてもらえたらいいなと思ってお店を作ることにしました。農業をやっていると、作った野菜を自分で廃棄するときの悲しさといったらなくて、また、イマイチなまかない料理を作ると見事に残されちゃうんですよ 笑 。いかに廃棄を少なく、みんなにたくさん食べてもらうかということを何年もやっていた経験が今の基礎になっています。農家の嫁だからできることをやっているという感じですかね。

おすすめのメニューは何ですか?

おすすめは「たくみのサラダ」で、季節毎の野菜をこれでもかってくらい盛り付けて食べていただいています。お客様からは「これで1人前なの⁉」とよく言われますが、普段野菜をあまり採らない方でも「美味しい」と言って召し上がっていただいてます。特にトレビス、からし菜、ビーツは評判がいいので、必ず栽培してもらって使っています。

 自らも捕獲しにいく鹿の肉を使ったサンド
 
自らも捕獲しにいく鹿の肉を使ったロースト 5年熟成の自家製味噌を付けて食べる 
自家製のドレッシングで食べるたくみのサラダ
冬の間、貯蔵しておいたサツマイモ(紅はるか)のスープにあさつき 醤油を乗せて

まなみの

  • 所在地 長野県佐久市望月135-4
  • T E L 050-3583-3152
  • HP https://manamino.jp
  • 営業時間 
    月~土 11:00 ~ 22:00 ※予約制
    日曜日 8:00 ~ 11:00 朝  
2021年6月20日