織座農園

窪川 典子さん(三重県鈴鹿市出身)
1986年に有機農業を始めた夫が長野県南相木村に移住。週末や長期休暇に通い続けた4年後、東京での仕事(教員)に区切りをつけ合流。
1992年、八千穂村(現佐久穂町)に家を建て、織座農園を始めて今年で35年。標高1000〜1200mの高冷地で一年を通してさまざまな野菜を育てている。
農園主である窪川さんのもとにはさまざまな人が集まり、共にその時々の仕事をし、語り合い、収穫した旬の野菜でご飯を作って食べる「織座の生活」をしている。

手探りで始めた有機農業

移住してきた当時のことを教えてください

当時は有機農家はまだまだ少なかった時代です。東京時代は家庭菜園をしていましたが、本格的な農業についてはほとんど何も知らず手探りでやっていました。

1,200mの花豆畑で研修生と。

八千穂村で初めて田んぼを始める時、6月の忙しい時期にも関わらず隣人が田植えの手伝いに来て、いろいろ教えてくださいました。本当にありがたかったです。少しずつ土地を貸してくださる方が増え、今では2ヘクタールほどの畑で、出来る範囲の作物を育てています。 有機農業や私たちの暮らしを知ってほしくて、家や農園を開放してきました。

「提携」というつながり方

 野菜の販売方法は?

最初は東京の小さな生協に毎週出荷していましたが、生協の合併により流通が途切れた時、有り難いことに「織座農園の野菜を食べ続けたい」と言ってくださる消費者がいました。

有機玄米と自家製味噌のお味噌汁。
色鮮やかな野菜料理を囲んでみんなで 食べる。この日は「提携」の消費者の方 から届いた手づくりの中華ちまきも!

それからは、流通を介さず季節の野菜を定期的に東京の消費者宅に直接配送する形態になりました。

つくる人と食べる人が直接つながり、共に支え合う関係を築いていく。それを私たちは「提携」と呼んでいます。配送の際、直接顔を合わせるので、その時のお互いの関心事について立ち話したり、休憩させてもらったりしながら交流を深めてきました。

毎週の定期便には、野菜と一緒に欠かさず『織座通信』を入れます。季節ごとの農園の様子、 野菜料理の紹介や私の想いや来園者の感想を載せる時もあります。

950 号を越した織座通信。

消費者は口コミで少しずつ増えていきました。
そのうち実際に織座農園に来てくださる消費者の方も現れて、つながりで農園にはいろいろな人が集まるようになりました。

共に暮らし、共に食べる

織座農園にはどのような人が訪れて、どのように過ごしているのですか?

単身で、親子で、時には子どもの友達も連れて、連休や夏休みを利用して訪ねてくれます。直接配送地域の消費者は、地域でもつながっていることが多く、打ち合わせて複数の家族で訪ねてくれたりもします。

また、初対面の消費者が偶然に複数集まることもあります。来園に慣れている方は、農作業を手伝ったり、農園の野菜を使ってご飯作り、掃除までしてくれる方もいます。それぞれが思い思いに過ごして、みんな揃って一緒にご飯を食べます。夜ならいっぱい並んだ野菜料理にお酒も加えてゆったりとした時間の中で、農業 の話、子どものアレルギーのことや環境のこと、教育問題や社会問題など、さまざまな話が飛びかいます。とても有意義な時間です。

「草取り大好きなの!」と楽しそうに
畑の草を取る窪川さん。

研修生として滞在する若者もいれば、「森のようちえんちいろば」の子どもたちが遊びに来たり、近所に住む方が、花壇や子どもたちの遊び場作りなど敷地内の整備を手伝ってくださる時もあります。
また、心が疲れてしまった人が連れられて来ることもあります。共に農作業をしながら時間をかけて交流を深めるように心がけています。
夫が不慮の事故で突然亡くなって途方に暮れていた私がこの場所で農業を続けていたいと思ったのは、この場所が好きだったこととたくさんの人たちとのつながりや価値観の共有があったからです。

集う人々のつながりに希望

35年目の今、織座農園の来園者ノー トには、2738人の体験談が綴ら れています。つながりがつながりを生み、いろいろな人たちが交流できる場の真ん中に有機農業がある。野菜を育てているつもりが、人も豊かに育っていくのです。最近記載された体験談を二つご紹介します。

森のようちえんちいろばとの関わり

「森のようちえんちいろば」との関わりについて教えてください

子どもが好きな私は、子どもたちのための農業と生活体験の場をつくることを望んでいました。地元で新規就農し結婚した元研修生たちに次々と子どもが生まれるようになった頃から、その子どもたちのために幼稚園を作りたいと思うようになりました。
2012年2月に大石区にある「旧八千穂村冬季分校」を借りることができました。翌月、私の願いを知っていた友人が、「幼稚園を開園したくて移住してきたのに、できなくて困っている人がいる」と知らせてくれたのですぐに会いに行きました。その時、今の園長の内保さんか ら『0歳から100歳までの子どもたちと共に』という理念を聞き、正に有機的なつながりを感じました。この人たちとなら共にやっていけると確信し、分校に案内しました。彼らに出会えた3月23日には私の想いがあふれて深夜まで語り合いました。

話が決まったら一気に園舎の手入れをし、半年後の9月23日に、元研修生の子ども2人を含むたった4人で「森のようちえんちいろば」が開園したのです。1年目は毎日、織座農園の敷地内で活動しました。春は種蒔き、夏は水遊び、秋は木の実拾い、冬は雪遊びなど子どもたちは自由に遊んでいました。自然の中で子どもたちの遊びはいつも豊かに展開し、子どもたちの内なる感受力に感動を覚えることも多々あります。

2年目以降は、活動できる森が確保できたので、「織座の日」として週に一度子どもたちと共に過ごすようになりました。子どもたちが農園に来る日はとても楽しみです。毎回どんな畑ごっこをしようかなと考えてワクワクして待っています。自分たちが育てた野菜を採って食べる喜びも体験しています。 「うちの子、野菜が嫌いだったんですが、織座の野菜なら〝おいしい〞って食べるんです」な どと言ってくれたお母さんもいました。食べ物で子どもは育つ!未来に生きる子どもたちには少しでもオーガニックなものを食べさせてあげたい。これに勝る食育はない と思います。

2021年4月から、「森のようちえんちいろば」は、認可園として新園舎での保育がスタートします。そこでは給食室が完備されますので、毎日のお昼のお弁当を、織座やつながりの深い有機農家の野菜を使った オーガニック給食にしようと計画しています。
作り手が見え、農薬や化学肥料不使用のお米や野菜を使ったお弁当をリュックに詰めて森に出かける子どもたちの姿を想像すると、もっともっとおいしい野菜を作ってあげたいと励みになります。


織座農園

  • 基本情報
    • 代表 窪川典子
    • 研修生 2名+助っ人多数
    • 所在地 南佐久郡佐久穂町大字八郡3078
    • TEL 0267-88-2641
  • 取扱商品
    • 野菜各種、土から生まれるもの
  • 販売形態
    • 提携(直接配送)、個別発送
2020年9月8日