土屋 梓さん(南牧村野辺山出身)
標高1345m 線最高地点でもある野辺山駅の近くに並ぶ無数のビニールハウス。夏場の暑い時期にこれだけのホウレンソウが栽培できるのは、冷涼な気候である野辺山高原だからであり、1日平均2トンという出荷量はこの時期では全国でもトップクラスだという。白菜やレタスの栽培が盛んな野辺山において、ホウレンソウを主軸に展開するアグレスの経営方針は、野辺山開拓時代から代々受け継がれるフロンティア精神によるものであり、社名の元となっている「アグレッシブ」な行動力が創り上げてきたものである。
三代で受け継がれる開拓魂
太平洋戦争中に国の保有地だった野辺山の一帯は、戦後の昭和20年代に全国から入植者が集まり開拓が行われるようになった。野菜の一大生産地にして成功を収めようと一念発起した人々もこの地域の厳しい寒さ、開墾の過酷さ、不作などにより離れていく人も多数いた。それでもこの土地に残り、産地化の波に乗り、現在へと親子三代がどのように引き継いできたのかを聞いてみた。
「祖父については自分がバイブルとしている野辺山の開拓誌や祖父の自伝日誌を読んだり、父親からの話で知りました。佐久市出身の祖父が自転車で長野県を1周している時に野辺山を知りました。
この土地の広大さと荒々しさに魅せられ18歳の時に入植を決意したそうです。自ら丸太で小屋を造り、夜明け前から日が暮れるまでひたすら開墾をし、それはとても困難を極めたといいます。野菜が作れるようになって、手始めに蕎麦、粟、白菜を作ったけど記録的な大旱ばつに見舞われ、白菜にいたっては壊滅的な被害を受け、精神的打撃をうけたそうです。それでもがんばれば明るい未来があるという希望をもちフロンティアスピリットの精神で野菜を作り続け軌道に乗せました。
父親もすごいチャレンジ精神があって、今まで白菜等を主要で栽培していたのに、夏場に需要のある野菜を市場に聞いてホウレンソウの出荷が少ないということで、即ホウレンソウ栽培に切り替えたみたいです。普通なら畑の半分くらいからハウスを徐々に建てていくと思うんですが、切り替えると決めた年は白菜やレタスを1本も植えず、大型トラクターも売ってしまい背水の陣で挑んでいました。1年目は1,000万円近くの赤字を出したけど、そのまま続けて3年目には黒字に転換したみたいです。そして数年で現状のハウス254棟を建てていました。
ホウレンソウに切り替えてから2年目に自分が入社し、入って9年目くらいに父親が他界したので事業を継承しました。築きあげてきたものを引き継ぎながらも自分は周りを巻き込むことが得意だと思っているので、先代が作ってくれた道筋をさらに広げていくことにしました。
まずはいろんな出会いの場に顔を出して繋がりを作ってきました。そのおかげで複数の卸業者を経て、関東から九州までのスーパーに納品されるようになりました。1世帯1パック購入したとして、1日に13,000世帯に届けられている計算になります。
また、埼玉県の生産者と関係を築き、冬の期間の仕事の創出として埼玉県でも栽培することになりました。山梨県にも圃場を持っていたので年間を通して仕事を回すようにしています。野辺山、埼玉、山梨の3 拠点でホウレンソウ、白菜、ブロッコリーの生産時期を上手くずらすようにし、お正月以外は常に動いています。最近はハウスを活用して周りの生産者の育苗を受託したりもしています。
出荷量の安定へのこだわり
栽培や経営で変えてきたことはありますか?
父の代まではそれほどではなかったですが、土づくりは変えたことの一つです。自然界では多種な植物が共存し合ってバランスを保っていますが、この畑ではホウレンソウしか栽培していないので、土のバランスが崩れてしまいます。連作障害よる病気を少しでも防ぐために土作りは重要ですね。
一般的に多いのは、土壌消毒をして土の中の菌を全て無くしてから栽培をしますが、これは効き目はあっても1度やるとずっと強い消毒を繰り返さないといけないので、微生物や堆肥を混ぜ込んでバランスの良い土作りに取り組んでいます。しっかりと毛細根を増やして、必要なエネルギーや水分を吸い上げることで水分含有量が増え、日持ちの良い野菜ができると感じています。
ただし、うちが一番重要視しているのは収穫期間中の120日間は絶対に欠品させずに出荷するということです。どんなにいいホウレンソウを作っても、出荷量に波があると顧客との信頼の問題になってきますので、その時の気候や状況によって様々な手を尽くして出荷し続けることを意識しています。
1つのやり方にこだわり過ぎて安定しないよりも、常に自分たちが柔軟に対応しながら安定的に供給責任を果たすようにしています。経営面では基本的には理念経営といいますか9割は想いの意識でやっていて、従業員も困難なことがあっても挑戦的に、楽しみながらやってくれていると思います。
働きやすい環境が作業効率をあげる
たくさんの従業員がいますがどのような構成になっていますか?
従業員は20〜40代が多く、中には70代以上の人やフィリピンなどからの技能実習生も多くいます。技能実習生の中には5年〜8年くらい働いている人もいます。彼らも貴重な戦力ですので、冬の間に交代で帰国してもらい年間で雇用しています。長い人になると仕事の段取りや肥料の追肥の散布量の調整までこちら側に提案してきてくれるので、よく野菜を見て考えながら働いてくれてますね。
収穫作業などでは高齢の方もいます。重さのある白菜だと作業が大変ですが、ホウレンソウは軽量ですし、ビニールのフィルムと黒い幕がかかっているので雨に濡れず、暑さも多少は遮られるので作業は比較的やりやすくはなっています。
ですので、女性や高齢者の方も多く、仕事の効率やスピードはあがっていると感じています。 さらに、より効率を求めたパッキングなどの作業では他の産地の視察などで見てきた機械を導入したり、オペレーション作りが得意な従業員に任せて仕事の効率化を図っています。
ホウレンソウ収穫では1日800 kg〜1tくらいの廃棄がでているという。土に帰しても次に育てたホウレンソウが病気になることもあるので収穫後は1度土の上をきれいにしなければならない。この大量のホウレンソウを無駄なく処理したいと考えて作り出したのが野辺山ほうれん草カレーペーストである。ホウレンソウをふんだんに使った本格的なスパイスカレーはクラウドファンディングでの先行販売を始め、さまざまなメディアに取り扱われるほどに。
また、自社でキッチンカーを保有し、イベントに赴いてカレーの販売などもしている。今年には地域貢献と自社のPRや交流の場として山梨県北杜市の清里駅前に野菜・加工品の販売やカフェのできる店をオープンさせた。
現状維持をせずに常にアグレッシブにチャレンジし続けている会社である。
株式会社アグレス
- 基本情報
- 代 表 土屋 梓
- 住 所 南佐久郡南牧村野辺山176-9
- 電 話 0267-98-2014
- メール email hidden; JavaScript is required
- 栽培品種
- ほうれん草、ブロッコリー、白菜