佐久市志賀出身。7年前に電子機器の製造会社を定年退職。転勤の多かった生活も終わり、家や地元のことを考える時間ができるようになった。そんな中、祖父や母が勤しんできた土地を放置しないようにと始めた農業。モノづくりの現場にいたということもあり、野菜づくりにも徐々にのめり込んでいった。多品種栽培する野菜のなかには、信州の伝統野菜に認定されている「佐久古太きゅうり」がある。佐久古太きゅうり保存会を発足し、初代会長を務めている。地元でもあまり聞き慣れないこの野菜の栽培方法や、セカンドライフで始めた農業について取材をした。
記憶の味との再会 地域への恩返し
佐久古太きゅうりとの出会いはいつ?
5年前に佐久市の広報誌で、佐久古太きゅうりの苗を無料配布するという記事を目にして、「子どもの頃に食べていたきゅうりじゃないか」と思いました。私が子どもの頃、この地域では養蚕が盛んで、夏の忙しい時期には、スライスして味噌や酒粕でもんだきゅうりが、しょっちゅう食卓に出ていたんです。
当時は、うんざりしていたのですが、久しぶりに見たきゅうりに妙に懐かしさを感じて、試しに育ててみることにしました。
保存会を発足したきっかけは?
佐久古太きゅうりは、平成23年には信州の伝統野菜に選定されてはいましたが、長野県が制作した認定証票を表示して出荷・販売するには、「伝承地栽培認定」を受ける必要がありました。認定されるには、生産者団体をつくらないといけなかったので、自分が先頭に立ってやろうと決めました。
その背景には、退職して地域に少しでも貢献したいという気持ちがありました。それと製造業に長年いて、新しいものをつくるということが好きだったので、この野菜をつくって広めたいと思ったんです。発足時の会員数は15名くらいでしたが、現在は27名に増えています。今年は佐久市の「バルーン体験搭乗」や「ヘルシーテラス佐久南」のイベントなどに参加し、普及活動をしていきます。
佐久古太きゅうりの特徴は?
一般のきゅうりよりも青臭さがないので、色々な料理に使いやすいと思います。ゴツゴツしている見た目とは違い、皮や果肉が柔らかくみずみずしさがあります。ただし、すぐに黄色っぽく変色します。多少の変色では品質や味に影響しませんが、冷蔵庫など低温での保存が必要です。
栽培の特徴としては、節ごとに雌花がついて短期に収穫できる「節成り」ではなく、子づるに飛び飛びに雌花がつく「飛び成り」なので、収量は少ないです。
工藤さんのご親戚に、軽井沢町でイタリアレストラン「アダージオ」を営んでいる中山正樹シェフがいる。工藤さんはお店に野菜を卸し、夏の繁忙期や人手が不足している日には接客係としてお店に立ち、お客様に野菜の説明などをしている。お二人にお話をうかがった。
レストランというステージ
お店に卸すようになったきっかけは?
工藤さん :(以下、工藤)私のほうから野菜を持っていき、売り込んだんだのが最初です。 中山シェフ(以下、中山)その後は、私がリクエストをして、最初はにんにくから始まり、現在は、多品目を工藤さんの畑から仕入れています。
もちろん、佐久古太きゅうりもです。佐久古太きゅうりを初めて入荷して下処理した時に、香りがとてもよく、食べると一般のきゅうりより甘みがあったので、それから継続して使っています。用途としては、マリネにして前菜のサラダに入れたり、生のままバーニャカウダで提供しています。
工藤さんの野菜を使ってみて感じることは?
中山 : 一言で言えば力強さがあるということです。甘味や旨味がお店で買う野菜よりも強く感じられます。ですから、余計な調味料を加えなくても美味しく仕上がっていきます。ここで野菜の直売もしているのですが、別荘のお客様で楽しみにされている方もいます。
接客係をしてみてどうですか?
工藤 : お店に納品だけしているよりも、野菜を食べて喜んでいただいているお客様の顔を見るとうれしくなり、野菜づくりへのモチベーションになります。レストランというステージがあるのはプラスアルファの喜びですね。また、お客様に野菜のことを聞かれると、知らない野菜について調べる ようになり、じゃあ実際につくってみようじゃないかとも思うようになります。
工藤正博さん
- 基本情報
- 代表 : 工藤正博
- 所在地 : 長野県佐久市志賀
- Tel : 090-9006-3639
- 取り扱い商品
- 佐久古太きゅうり、西洋野菜など
- 販売先
- ヘルシーテラス佐久南、アダージオ他
アダージオ
フランスチーズ鑑評騎士の会の「シュヴァリエ」の称号を持つシェフが、地元野菜をふんだんに使って多彩なチーズを取り入れて作った料理が評判のイタリア料理店
- 住所:長野県軽井沢町長倉2792-2
- 電話:0267-41-0228