八菜農園

塩川浩志さん(東京都出身)
 大手新聞社の記者だった塩川さんは、社会部で刑事事件などを18年間取材してきて、やりがいもあった。一方で、昼夜問わず働く仕事のスタイルは、子育てや家庭の時間が取りづらかったため、思いきって転職と移住をすることに決めた。就農のため2010年の春に長野県に移住、1年間の研修を経て2011年に独立した。八菜農園の畑や作業場がある場所は、佐久市の中枢機能が集まっているエリアから車で5分ほどで、牧場や種の試験場が目の前に、名所にもなっている菜の花畑がすぐ横にあり、眺めの良いロケーションが魅力的である。

家族と共に

新聞記者を辞めて、農家になった理由は?

畑でのびのびと育つなす。

新聞記者時代は家族との時間が少なすぎて、子ども2人が自立する10数年間くらいは子育てに関わりたいなと思ったこともあり、自分たちで仕事のペースが決められる仕事をしたいと考えていました。もともと定年後には小さな畑で野菜を作って暮らしたいと思っていたので、それを前倒しして本職にしたという感じですね。記者の時はデスクより現場が好きだったから、畑での作業は合っていますね。

農薬・化学肥料不使用で育てられた野菜。

それと、昔から夫婦で食べ物に気をつけていたというのはあります。私の親も買い物の時には原材料や栄養成分表示を気にして、なるべく体に良いものを選んでいたので、自分もなんとなくそれが癖になっていました。また、子どもがアレルギーだったということもあって必ず原材料をチェックしていたので、食べ物を作る農業は、大きな選択肢の一つでした。

どうして佐久市だったのですか?

農薬・化学肥料不使用で育てられた野菜。

移住先の候補はいくつかあったんですが、忙しくて下見にいくことができず、机の上でネットなどを見ながらいろいろ調べていました。その中で、長野県の※ 里親制度が目に留まったのと、軽井沢にはよく行ってて感じは知っていたので、あの涼しさなら虫や病害に対応しやすいのかなと素人ながらに考えました。

農薬・化学肥料不使用で育てられた野菜。

それと、自分の祖先が小諸にいたという縁も感じていたのかもしれません。今の場所を拠点にしたのは、公園や市役所、スーパーなどが近くにあり、子育てしながら暮らしやすいと思ったからです。それに、自宅の目の前に浅間山がよく見えて、並木道の中に畑が広がっているこの風景が一発で気に入りました。

※〈里親制度〉就農支援のひとつで正式名称は『新規就農里親活動支援事業』という。就農希望地周辺の熟練農業者(里親農業者)の下で営農技術を学びながら、農業大学校の研修を原則2年間受講する。

里親のヨコハチファームさん(patapata vol.10で紹介)の元で1年間研修してから独立をし、「八菜農園」という屋号で農園を始めた塩川さん。

名前の由来は?

独立して、農園の名前を考えていたある日、当時8歳だった長男が自分の歳にちなんで「八菜農園がいいよ」って言い出したんですよね。最初は聞き流していたんですが、よくよく考えると八は末広がりで縁起がいいし、野菜とも読めるし、多彩な感じがしたのでそれを屋号にしました。その他にも、ズッキーニをモチーフにしたキーニくんというキャラクターなどをいくつか考えてくれて、それをTシャツにしてイベントで着たりもしました。今では息子たちも大きくなったので、畑も手伝ってくれますし、忙しい時はご飯も用意してくれるので、家族みんなでやっている感じがして、転職してよかったなあと実感しています。

農園の特徴を教えてください。

農園の特徴としては農薬・化学肥料不使用で栽培しています。安全な食べ物を子どもたちに食べさせたいという想いが就農前からあったので、そこは迷わなかったです。あとは個人宅の配送が多く、愛媛や大阪など長野県から遠くて環境の違う場所にも送っています。なので、この地域では煮物などでよく食べられているモロッコインゲンや、全国的にはまだ馴染みのないぼたんこしょう、葉っぱも美味しい間引きで採った人参や大根など、長野県では馴染みがあっても全国ではあまり流通していないような野菜をセットに入れています。

配送される野菜セット

荷物の中には「八菜通信」を入れて、その時の作業や畑の様子、私たちの想い、おすすめレシピなどを伝えています。そういったことを感じ取っていただいたのか、出産の内祝いとして、または世代をまたぐ形で野菜セットを購入していただいています。

佐久市の学校給食にも納品しているということですが・・・

城山小学校の食育:芋掘り

移住してくるときに、子どもには自校給食を行っている学校に通わせたいと考えていました。その頃はほとんどの学校がセンター化されていて、市内で唯一自校給食だった城山小学校の校区に居を構えました。学校に行った時に給食の先生と話す機会があり、農家をやっていると話したら、「学校に野菜を入れてくださいよ!」とおっしゃっていただいたので、独立して2年目には野菜を納品していました。納めた野菜が給食に出てくると「〇〇くんちのズッキーニだ」と声が上がっていたと子どもから聞いたり、学校ですれ違った時に「ズッキーニ苦手なんだけど食べられたよ!」と声を掛けてくれたりして、生産者の顔が見えるのはいいなと思いましたし、売り上げ以上に私たちのやりがいに繋がっています。その後、城山小学校もセンターに移行してしまいましたが、今でも野菜は学校給食で使ってもらっています。

城山小学校の食育:米作りの栽培のサポート
城山小学校の食育:米作りの栽培のサポート

他にも子どもたちの食育の一環で、学級菜園のサポートやアドバイスをしたり、保護者で「しょくいくらぶ」という有志のグループを発足したりしました。しょくいくらぶでは通信を年数回発行したり、子どもたちが育てたジャガイモ、小麦で作ったコロッケを同じ地域から作られたナタネ油で揚げてみんなで食べるなど、子どもたちに食文化や風土を伝えています。

城山小学校の食育:自身の体験を踏まえた農業についての授業の様子

この地域には食や農、食育に熱心な方が多くて、特に近所に佐久楽農倶楽部(patapata vol.12で紹介)の荻原徳雄さんがいたことはとても幸運でした。城山小学校の食育もしょくいくらぶより前からやっていて、私たちもいろんな事を教えていただいています。先輩たちの意志を引き継ぎながら、しょくいくらぶも次世代にバトンタッチしていかないといけないので、今後はその橋渡しをする役目をやっていきたいと思っています。

八菜農園

  • 基本情報
    • 所在地:佐久市瀬戸377-53
    • 従業員 5名
    • M A I L : email hidden; JavaScript is required
    • Facebook 「 八菜農園」で検索
  • 取り扱い商品
    • 年間70 種類ほどの多品目栽培
  • 販売先
    • 個人宅配セット、直売所出荷(JAファーム、地元スーパー)・生協などとの契約栽培、学校給食、地元レストラン(レストラン マルシェ)
2021年12月6日