ゆめふく農園

大井 大輔さん(佐久市根岸出身)

モモやリンゴなどの果樹栽培が盛んな佐久市中佐都地区。100年以上前に始まったモモの栽培は1950年以降に盛り上がりをみせ、生産者数、出荷量ともに伸びていった。1980年代には全国でも数少ない指定産地になったりもしたが、佐久平駅の近郊という立地もあり1990年代から新幹線や高速道路の開通など交通網の整備、それに伴い宅地の造成が活発になりモモ畑の面積は年々減少していった。 ゆめふく農園の畑は現農場長の大井大輔さんの奥さんの祖母の代から始まり、大井さんで三代目となる。先述の歴史とともに歩みながらも家族の想いで繋げてきたモモ畑は三代目の手により少しずつ新たな展開をみせようとしている。

役所職員から農家へ

19年間勤務してきた市役所を退職し、家業ではなく奥様の実家のモモ畑を継ぐことになった経緯は?

反射シートを地面に敷いて下からも陽を当て、光溢れる見事な空間にモモの実が並ぶ。重さで枝が折れることもあるので、育ち具合を見ながら支え棒を入れていく。収穫時を見逃さないように糖度計測器も使用。

小学生の頃から地元でとれるおどろき(モモの品種)が大好きで、出始めると集荷場に行って、省きのモモを目当てに並んで購入していました。妻の実家がモモ農家だったのはたまたまなんですが、モモが好きだったこともあって結婚してからずっと収穫などは手伝っていて、5年前くらいから本格的に摘果や剪定などの作業も手伝うようになりました。10年ほど前に妻の父親がケガをして、果樹栽培につきものの高所での作業などが危うくなり果樹栽培は少しずつ自分が引き継いで、義父は米づくりへ専念するようになりました。

ちょうどその頃、自分の父親が定年退職をしたこともありモモの栽培を手伝ってくれるようになりました。 前職時代から職場の人やそこから繋がった人に注文をいただくこともありました。

前々から、慣れ親しんだこの風景が見れなくなったり、モモを食べれなくなるのは寂しいという妻との共通の想いがあり、いつかはモモ栽培をやりたいなと話していました。元々モモが好きだったこと、栽培や販売に魅力を感じていたこと、義父が畑の管理が難しくなってきたこと。いろんな事や想いが重なって、早いほうがいいのかなと思うようになり正式に畑を受け継ぐことにしました。それと、転職を考えている期間に父親に養蜂の話を聞いたり、コットン栽培の話をもらっていて、モモの栽培以外にもやりたい事が増えていったというのも就農のきっかけになったと思います。

ライフスタイルの変化

転職をするにあたり、家族の理解や支えが必要だと思いますがその辺りは心配なかったですか?

どこまでできるかわからなかったし、前職でのやりがいも感じてはいたので迷いはありました。ただ、このタイミングでやらなかったらもうずっとやらないんだろうなと思いました。

家族に背中を押してもらったのは大きかったですね。父親からは家族が生活していける目算が立てられれば何をやってもいいし、今までの仕事とは時間の使い方が違うから、家事の分担を変えていけば奥さんも働きやすくなるのではないかと言われました。実際に料理をする機会がだいぶ増えましたね。両親の家が離れにあって、転職する前から子どもの面倒を見てもらっていたのですが、学校から帰ってきても今だに向こうの家に「ただいま」って帰っていくので、その間に夕飯の準備をしています。まだまだ不慣れな部分もあるけど、これはこれで悪くはないなと感じています。

試行錯誤の日々

手伝っていた時と本職にするとでは様々な面で違うと思いますが苦労したことなどありますか?

部分的な手伝いではなく、栽培から販売までを一連の流れでやってみたいなと思っていました。収穫のタイミングを自分でコントロールして、いい状態の時に直接お客様に届けて喜んでもらうというのが理想なので、そういう意味では就農して専念できるので良かったです。

ただ、実際は必要とされている納品のタイミングが天候などによって影響を受けることや、桃の状態を見ながら収穫開始のタイミングを見極めることなど、難しいところが色々あります。

風通しの良いキウイ棚の木陰に置かれた巣箱。巣箱は10キロ程あり蜜が入れば20キロ以上になり蜜を収穫する作業は重労働。

様々な調整や知識は、自分で調べたり、妻の実家の両親やJAさん、周りの農家さんに聞いたりして勉強の毎日です。この園地も年数が経って古い木があるので、少しずつ抜根して改植していかないといけない。この近辺で新しく場所を探していく必要もありますが、現状のやり方でいけばそれほど広げられないので、その辺はバランスをみながら進めていきたいです。

途中参加なので王道でなく面白い事をやりたいなと思っています

新たなチャレンジとして養蜂とコットンを始めていますがそれぞれどのようにやっていますか?

養蜂は、野生のミツバチである日本ミツバチのハチミツを食べて美味しいなと思ったので自分も始めてみることにしました。日本ミツバチは百花蜜なのでその地域のその時期の蜜の味になります。日本ミツバチに巣箱を気に入ってもらえる環境を整えるのが難しく、気に入らないと出て行ってしまいます。暑すぎないか、振動がない静かな場所かなどがポイントになります。 養蜂も一緒にやってくれている父親は、事務職などの仕事をしていましたが物作りが好きで、とにかく自分で工作をしてみるという性格なので巣箱づくりにも色々アイデアを出してくれます。

巣箱は基本的な形はありますが、県内で活動している信州日本みつばちの会に入って、巣箱の細かい部分の改良のヒントを得て、自分たちなりのやり方で改良してみました。特に冬の寒さが厳しいこの地域では、越冬させるのに巣箱の木の厚さも言われていたものよりも少し厚い方がいいだろうし、巣箱の周りに籾殻を当てて暖をとってあげたりしています。あとは巣虫などの外敵から守るための予防策も工夫をしています。

夏場に花が咲き、秋になると綿菓子のような綿花がなる。

コットンは前職で同じ部署にいた方が栽培していて勧められました。就農するならモモ以外のものも栽培してみたかったし、コットンはこの辺では珍しく、自分の発想にはない品目だったのですぐ飛びつきました。提携している企業から種をもらって昨年から栽培を始めました。今年はマルシェに出したり、コットンの収穫体験を予定しています。

収穫時期がモモと被らないし、基本水やりと雑草の管理をしていけばよさそうなので栽培しやすいのかなと思います。ただし、発芽した時に芽を切ってしまうネキリムシや、アブラムシ、ハマキガなどへの対策は必要です。無農薬栽培なのでコーヒーかすをまいたり、木酢液をまいたりしています。10月〜12月あたりに収穫予定です。最終的には、コットンから紡いだ糸で何か製品化できたらいいなと思っています。

ゆめふく農園

  • 基本情報
    • 代 表 大井 大輔 
    • 電 話 090-8004-3911
    • メール email hidden; JavaScript is required
  • 栽培品種
    • おどろき、あかつき、川中島白桃ほか
    • 日本ミツバチの蜂蜜、コットン
2024年8月29日